プライベートブランドとは?メリット・デメリットや事例も徹底解説
2022年09月15日
プライベートブランドコンビニやスーパーに足を運ぶとプライベートブランド(PB)商品を目にする機会が多くなりました。プライベートブランドという考え方が現れた当初は「安かろう悪かろう」といった印象が強かったものですが、現在ではその印象が一転し「安くて質も高い」といった理由でプライベートブランド商品を選ぶ人も存在します。
今回の記事ではプライベートブランドについての基本的な知識や事例、小売側・メーカー側双方から見たメリットやデメリットを解説していきます。
プライベートブランド(PB)とは
プライベートブランド(Private Brand)とは、小売店や流通事業者など、本来は商品の製造を行わない事業者が企画・開発をする独自ブランドのことです。例えば、西友の「みなさまのお墨付き」や生協の「CO・OP」が該当します。
顧客の意見を反映した商品開発が可能、価格設定を行いやすいなどのメリットがあり、大手小売業(コンビニやスーパー)・専門店・ドラッグストアで販売されています。
一番の特徴は、安い価格で提供できることです。自社で企画・開発を行っているため、コストとしてかかるのは製造業者への委託費用のみです。また、広告代理店や卸店などを経由せずに製造業者と直接取引をし、大量に製造を依頼(OEM)することで仕入原価を抑えることができます。
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ナショナルブランド(NB)との違い
メーカーが商品企画・開発・生産を行う伝統的なスタイルは「ナショナルブランド」や「NB」と呼ばれます。ロッテの「コアラのマーチ」や日本ハムの「シャウエッセン」など、メーカーが自社ブランドとして各商品を生産して小売店などへ販売を行っている商品であるのが特徴です。
さまざまな店舗で売り出されるのが前提のナショナルブランドに対して、プライベートブランドは自社オリジナルのブランドになります。それゆえユーザーの意図をくみ取ったプライベートブランドを開発して売り出せば高い収益を見込めるでしょう。また生産効率面などで、小売業者とタイアップするメーカー側にもメリットがあるのもポイントです。
ストアブランド(SB)との違い
ストアブランド(SB)は、小売業者や流通業者などが「すでにある商品の品質を改善して販売する」ブランドのことです。
例えば、プライベートブランドが「顧客にはこういった商品が求められている」と商品の企画からスタートするのに対し、ストアブランドは、「今あるこの商品を更に使いやすくする」といったように、商品の改善をスタートとしています。
SPAとの違い
SPAは「specialty store retailer of private label apparel」の略です。もともとは、商品企画から流通やプロモーションなど、商品の製造から販売まですべてを網羅するアパレルのビジネスモデルを指していました。現在では、アパレルにかぎらずさまざまな業界で用いられています。
これは、多様化した消費者のニーズをいち早く汲み取り、製品化するという企業の戦略が定着したことが影響していると考えられます。
3つの観点から見るプライベートブランドのメリット
小売側の3つのメリット
プライベートブランドを主に展開するのは、小売業者です。従来はナショナルブランドをメーカーから仕入れて商品を販売していましたが、現在では商品棚で多くのプライベートブランドを見かけるようになりました。何故なら、以下のようなメリットが存在するからです。
- 利益率が高い
- 消費者ニーズを取り入れやすい
- 顧客の囲い込みが可能
利益率が高い
プライベートブランドはナショナルブランドよりも仕入原価が低い傾向にあり、高い利益率の商品を販売できます。仕入原価が低くなる要因は、以下の通りです。
- ナショナルブランドに上乗せされているプロモーションコストを削減できる
- 商社や代理店を通さないためマージンを減らせる
当初は品質の悪さが指摘されていましたが、大手メーカーの参入により、大幅に改善されています。
消費者のニーズを取り入れやすい
小売業者は常日頃消費者と接しており、新たなニーズを発見しています。ですが、ナショナルブランドの場合、そのニーズを直接反映した商品の販売がスムーズにいくとは限りません。メーカーと価格や生産数の交渉が折り合わず、断念するケースもあります。プライベートブランドなら、このようなメーカーとの折衝が必要なくなり、ユーザーのニーズに沿った商品をダイレクトに展開可能です。商品の改良も自由に行えます。
顧客の囲い込みが可能
他の小売業者でも販売されているナショナルブランドとは違い、プライベートブランドは独占販売が可能です。人気商品の開発に成功した場合、顧客の囲い込みを狙えます。取り扱っている商品に類似品が多い小売業者にとって、オリジナル商品の存在はなによりの強みです。
メーカー側の3つのメリット
小売業者にとってメリットが大きいプライベートブランドですが、実はメーカーにとってもメリットが存在します。
- 生産計画を立てやすい
- NB商品の改善に活かせる
- 広告宣伝費を使わずに自社のPRが可能
これらのメリットがあることから、ナショナルブランドを生産しているメーカーでも、小売業者からの依頼に応じているという背景があります。
生産計画を立てやすい
小売業者から依頼された分を生産するだけなので、生産計画を立てやすいのがメリットです。万が一売れ残っても、小売業者が在庫を引き受けてくれます。売り上げ状況によって生産調整が必要、売れなかった場合は在庫を引き受ける必要があるナショナルブランドとは対照的で、安定して収益を得られます。
NB商品の改善に活かせる
プライベートブランド生産で得たノウハウを、自社のナショナルブランド商品改善に生かすことも可能です。メーカーは顧客との距離が遠い傾向にあるため、ニーズに敏感な小売業者の知見を取り入れることは、良い刺激となります。
広告宣伝費を使わずに自社のPRが可能
プライベートブランド商品は、生産メーカーの名前を記載するよう法律で義務付けられています。これにより、購入した顧客にメーカーの存在をアピールすることが可能です。本来なら莫大な広告宣伝費を利用して行われているPR活動が、実質無料で行えます。
消費者側のメリット
消費者側のメリットは、商品の価格が安いことです。プライベートブランドの商品は、価格を抑えて製造できるため利益率が高いことはもちろんですが、売値も他のNB商品と比べて安いという特徴があります。
原材料費やの高騰や社会情勢によって値上がりが続く昨今の経済状況では、「少しでも安く物を買いたい」と思う消費者は多数いるでしょう。プライベートブランドでも、値上げの影響は少なからずありますが、NB商品と比べると低価格のため「安く買いたい」という顧客のニーズにマッチしています。
3つの観点から見るプライベートブランドのデメリット
小売側の2つのデメリット
プライベートブランドの展開には、デメリットも存在します。商品開発を0から始める以上、多額のコストも必要です。以下のデメリットを理解したうえで、PB商品の開発が自社の利益に繋がるかを見極める必要があります。
- 在庫を抱える可能性がある
- 商品の品質を担保する必要がある
それぞれに触れていきます。
在庫を抱える可能性がある
プライベートブランドはメーカーではなく小売業者主体のため、売れ残った場合の返品ができないというデメリットがあります。他者への転売も難しいため、売れなかった場合は在庫にしなければなりません。在庫を保存するスペースや人員が必要となり、小売業者への負担となります。
商品の品質を担保する必要がある
小売業者主体のため、商品品質も担保しなければなりません。万が一問題が発生した場合、サポートやクレーム対応も行う必要があります。「品質が悪い」「価格が高い」など商品が低評価だった場合、それによるブランド価値低下も覚悟しなければなりません。現在はプライベートブランドにも高品質が求められるようになっており、展開する場合は計画を入念に錬る必要があります。
メーカー側の2つのデメリット
メーカー側から見たデメリットとしては、以下が挙げられます。
- NB商品の売上が低下する可能性がある
- プライベートブランドは撤退する可能性がある
ナショナルブランドを擁するメーカーとプライベートブランドを展開する小売業者の利害は一致しない場合もあるので、依頼されたメーカーには慎重な対応が求められます。
NB商品の売上が低下する可能性がある
小売店のスペースは限りがあり、多数の商品がわずかなスペースを求めてサバイバルを繰り広げています。生産を請け負ったプライベートブランドが大ヒットしたはいいものの、その結果ナショナルブランドの売り場が縮小すると元も子もありません。パワーバランスの変化に気を配る必要があります。
プライベートブランドは撤退する可能性がある
プライベートブランド商品は、失敗した場合小売業者の負担となります。そのため、売れ行きによっては短時間で撤退する可能性もあり、注意が必要です。関係も途切れるため、今後関係を深める予定だった場合も痛手となります。時にはメーカー側もノウハウを提供し、協力しながらプライベートブランドの成功を目指しましょう。
消費者側のデメリット
消費者側のデメリットは、品質も価格と同様に落ちてしまうという点です。NB商品の類似品であるかのように見えていても、原材料や成分、配合量、比率などをより低価格なものに変えることでコストを抑えている場合もあります。そういった商品は、NB商品と比べると品質が劣るように感じてしまう可能性があります。
プライベートブランドの先進事例
プライベートブランドの概要について解説しましたが、より理解を深めるため、実際の事例をいくつか紹介します。事例を通して、プライベートブランドの動向を探りましょう。
セブンイレブンの事例
2007年からプライベートブランド「セブンプレミアム」展開しています。お惣菜、生鮮食品、雑貨に至るまで幅広い商品を販売しており、2020年5月には2007年からの累計の売り上げが10兆円を突破しました。
かつてのプライベートブランドが既存商品の廉価版であったのに対し、品質や安全性においても高品質を目指したのがセブンプレミアムの特徴です。2020年5月には、健康志向、環境への対応、グローバルに認められる品質を実現するための「セブンプレミアムコネクト宣言」を発表しました。4つの取り組みから構成されています。
- 食品ロス対策やCO2排出量削減を実施
- 塩分、糖質を抑えた食品の開発や栄養成分表示の改善
- 専門店並みの品質を実現する「セブンプレミアム ゴールド」の強化
- アジア各国での販売やパッケージの英語表記拡大
これらの取り組みによって、ステークホルダーとの関係を強化し、変化し続ける人々のライフスタイルに対応できるプライベートブランドを目指しています。
参考:消費環境の劇的な変化に対応する成長力の確立へ / セブンプレミアム コネクト宣言(2020年5月) | 企業情報 | セブン&アイ・ホールディングス
西友の事例
西友は2012年、既存のプライベートブランドを一新した「みなさまのお墨付き」を販売開始しました。その名の通り、顧客の支持率が80%以上の商品のみを販売するという、ユニークな試みが実践されています。支持率は西友のメインユーザーである主婦100名の試食によって決定され、80%以下の場合は商品の改良を行わなければなりません。この手法は、イギリスの大手小売業者ASDAの事例をアレンジして実行されました。消費者の厳しい意見を取り入れることで、市場のトレンドをいち早く取り入れることが可能であったり、地域性のある商品展開に繋がるなどの効果を得ている事例と言えるでしょう。
2019年時点で商品数は1,000点を突破し、多種多様な商品を手ごろな価格で販売しています。
参考:
西友 - プライベートブランド みなさまのお墨付き | SEIYU
発売から売上30%増を継続!生活者が商品化を決める西友のPB「みなさまのお墨付き」成功の秘訣とは? (1/3):MarkeZine(マーケジン)
イオンの事例
1974年、日本初のプライベートブランドである「トップバリュ」を創設し、40年以上経過して現在でも展開しています。初めはジェーカップのみでしたが、後に食料品・衣料品・生活家電など幅広いを商品を販売するに至りました。
トップバリュの特徴は、顧客のニーズに応じた4つのブランドを展開している点です。
- 生活品質を向上させる商品を提供する「トップバリュ」
- 品質と低価格を両立させた「トップバリュベストプライス」
- 健康や自然環境にやさしい「トップバリュグリーンアイ」
- こだわりぬいた商品を低価格で提供する「トップバリュセレクト」
「シンプルで分かりやすい」「安心・安全な商品作り」という基本的な軸を共通して持ちつつもそれぞれのブランドの特色が分かりやすく展開されており、消費者は自分の嗜好にあったブランドを選択することが可能です。
参考:進化する「トップバリュ」。
PB商品を成功に導くポイントとは
PB商品を成功に導くためには、以下の3つのポイントが重要になります。
- ブランド戦略を意識する
- 業態を問わず同一価格で販売を行う
- 消費者の声に耳を傾ける
それぞれ解説していきます。
ブランド戦略を意識する
プライベートブランドは自店舗のブランドとなるので、ブランド戦略を意識して認知度や評判を上げていく必要があります。
- どのようなニーズが顧客にあるのか
- 売上を確保するにはどうやって生産して売り出せばよいか
- 競合店舗と差別化して認知してもらうにはどうPRすればよいのか
といった点を考えながらブランドを醸成していきましょう。
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業態を問わず同一価格で販売を行う
ナショナルブランドの場合商品価格は店舗ごとに異なります。しかしプライベートブランドの場合は自社のグループ店舗で売り出すことになるので、同じ商品が異なる値段で別店舗に売られていると消費者が混乱したりといった影響が出てしまう可能性があります。
業態を問わず同一価格で販売することで「この商品はどこで買っても同じ値段」という認識を消費者に与えることができれば、スムーズな購買へつなげられるでしょう。
消費者の声に耳を傾ける
プライベートブランドには消費者目線で役立つ商品をそろえる必要があります。メーカーにはない小売独自の視点から顧客の声を集めて商品に反映させられるかがポイントです。
そしてメーカー側とも意見を重ねながら売れるプライベートブランド商品の企画を立てて開発を行っていきましょう。
まとめ
今回は、小売業者やメーカーにとって重要なワードであるプライベートブランドについて解説しました。利益増大や顧客囲い込みの観点から、大手小売業者はこぞってプライベートブランド展開に乗り出しました。メーカー側も、プライベートブランドの企画を小売業者に提出し、進出を図っています。ブランドを立ち上げる場合は、協力企業と信頼関係を築き、高品質・手ごろな商品を提供できるよう尽力しましょう。